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第二回研究会:レポート

第二回研究会


日時:2011年12月27日(火)13:30〜(開場13:15)
会場:総合生涯学習センター第七研修室(梅田第2ビル5階)
参加者数:14名(アーティスト、研究者、愛好者、アートNPOスタッフ等)
発表内容:

■発表1
蛇谷りえ (こどもとアートとその周辺のためのプロジェクト[RACOA]ディレクター)
「ジンフェアレポート〜ジンに関わる人たちのビデオインタビュー上映と行ってみた感想〜」

 前回の研究会で話題に上った「最近よく耳にするジンってなに?」という疑問。バンドなどのファン同士でつくる同人誌の一種「ファンジン」と呼ばれるものがそのルーツらしい、という意見があったものの、実際どんなものなのか、どんな風に使われているのかは、いまいちはっきりしなかった。そこで、「大阪ジンフェア」がFLOAT(大阪・西九条)で定期的に開催されているので、蛇谷りえさんが潜入レポートすることに。「大阪ジンフェア」の会場の様子や主催者からのインタビューを交えた映像によるレポートは、ジンを作って配って楽しむ人たちの生の様子を伝えてくれた。

 主催者のミカさんとアンナさんのお話によると、ジン(zine)はマガジン(magazine)やファンジン(fanzine)の短縮型とのこと。基本的に手渡しやお店においてもらうなどして配るもので、少部数発行のためか、作り手と渡り手が繋がりやすいそうだ。ちなみに無料で配られるフリーペーパーとの違いはというと、「フリーペーパーは新聞的で大量部数発行」「ジンは雑誌的で少部数発行」というなんとなく納得してしまうような棲み分けがあるようだ。ジンのよさはいろいろある。まず「楽にできる」「交換できる」「日本語が間違っていても出せる(!)」「自分を表現したものを直接相手に渡して話すきっかけになる」。実体のあるコミュニケーションツールとして機能する点が、ジンの人気の秘密らしい。そして印象的だった言葉が、「日本には文房具が豊富でコピー機がどこにでもある」ということ。ジンを作るには、日本はうってつけの環境だそうだ。

 1960年代に現れたジンは、1970年代には音楽や女性の自立活動と結びついたり、レコード屋でグラフィックデザイナーが手がけたジンが販売されたりという歴史の中で、東京では2009年6月から「Zine's Mate」というジンフェアが始まり、大阪ではリトルプレス専門店「Books Dantalion」さんがジンの火付け役となっているそう。最近ジンをよく耳にするのはそういうわけだそうだ。

関連情報
・大阪ジンフェア:http://osakazinefair.tumblr.com
・Zine's Mate:http://zinesmate.org
・Books Dantalion:http://www.books-dantalion.com



■発表2
城戸みゆき(ビジュアルアーティスト)
「旅する書物―KASHIMA 2011 BEPPU ARTIST IN RESIDENCEで出会ったブックアートを中心に」

 城戸さんは、様々なアーティスト・イン・レジデンスで滞在制作経験を積んでこられた。今回の発表では、最近滞在制作した「KASHIMA 2011 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE」に至るまでのご経験を、ブックアートにまつわるエピソードを交えてご紹介いただいた。

 まずはじめに2009年に滞在したオーストリア・クレムにあるアーティスト・イン・レジデンスについて。このレジデンスの近くにある墓地に、以前レジデンス滞在したアーティストが手がけたモニュメントがある。そのモニュメントは屋外にぽつんと佇んでいるが、雨風がしのげるようになっている本棚で、その本棚の中に本が幾冊かおさめられている。それらにはドイツ語で虐殺の歴史が書かれているらしい。

 次に2008年に滞在したフィンランド・ミッケリのArt Center SAKSALAでのアーティスト・イン・レジデンス。ここでの城戸さんのプロジェクトは、教室の机の落書きを紙に印刷し、それをランチョンマットとして配布して学校の食堂で使用してもらうというもの。レジデンスの近くには、古くから聖書などを印刷してきた印刷所があり、そこで印刷してもらったとのこと。

 2010年には韓国・清洲(チョンジュ)のHIVE art campで「忘れたことさえ覚えていない」というタイトルのインスタレーション作品を制作した。清洲には古印刷博物館があって、かつて活字印刷が盛んだったせいか、活字印刷の制作過程をからくり人形で再現した展示室があったり、活字印刷を体験できたりしたそうだ。また2008年アートフェスティバル清洲で開催された展覧会のカタログ『Nonscence of Knowledge : Book+Art』から、韓国のアーティストによるブックアート作品を少し紹介してくださった。

 最後は大分・別府のKASHIMA 2011 BEPPU ARTIST IN RESIDENCEでの様子。城戸さんは、滞在中に食べた野菜や果物の種を日々育苗ポットに播き、育てていくというプロジェクトを行った。別府でもブックーアートらしきものを見つけた城戸さん。同時期にBEPPU PROJECTで滞在制作していたタイのアーティスト、ピシタクン・・クアンタレーング(Pisitakun Kuantalaeng)が制作した『ERQUE』というマンガの小冊子を、実物と彼のインスタレーション作品の写真を見せながら紹介した。下の写真に写っているキャンディーの様なものは、彼のインスタレーションに使われていたもの。「ERQUE(アークイ)」とは、彼が生まれて初めて東京で地震に遭遇した時に発した驚きの言葉だそうだ。他にも別府の雑貨屋で見つけた手づくり本なども紹介してくださった。



紹介された本
・『Nonscence of Knowledge : Book+Art』, 2008 Art Festival Cheongiu, 2008
・『ERQUE』, Pisitakun Kuantalaeng, 2011
・『ZINES! Volume One』, V.Vale, Re/Search Publications, 1996
・『ZINES! Volume Two』, V.Vale, Re/Search Publications, 1997

関連情報 
・Artist-in-residence Krems(オーストリア・クレムス):http://www.air-krems.at
・Art Center Saksala(フィンランド・ミッケリ):http://www.saksala.org/artists-in-residence/index.htm
・古印刷博物館(韓国・清洲):http://www.jikjiworld.net
・KASHIMA 2011 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE(大分県・別府市):http://www.beppuproject.com/project/kashima.html



■発表3
森下明彦(メディアアーティスト/美術愛好家)
「本と美術――いくつかの事例を基に」

 2011年にアメリカで再版された「ブック・アート」に関する本『The Book as Art』を紹介しながら、オブジェとしての本や、本を素材とする作品の紹介をしていただいた。

 この本を発行した「the National Museum of Women in the Arts」はアメリカ・ワシントンDCにある国立美術館で、美術館の中に「Book Arts」部門があり、そこに学芸員がいるとのこと。「ブック・アート」がジャンルとして認められている上、この本ではその「ブック・アート」作品を9つのテーマに分類してまとめてある。本全体を紹介しつつも、今回は特にオブジェとしての本をピックアップしてみてゆき、修正・加工した本(Altered Book)、1点もの本(Unique Artists' Book)などの事例を知ることができた。

 また、本を素材とする作品を知るために、もう一冊2011年に出版された『Book Art: Iconic Sculptures and Installations Made from Books』という本も紹介いただいた。森下さんは、このタイトルにある「Iconic」という言葉の意味を「象徴的」と捉えるのがよいのか、「画像/映像の」とか「模造的な」とか、どの意味でとらえるとよいのか考えているとのこと。この中の作品で特に目に留まったのが、ジム・ローズノー(Jim Rosenau)の「Steps to better reading」という作品。ヴィンテージ本を家具の素材にした作品はまさに「ブック・アズ・ファニチャー」、素材と意味とがぴったりと合った作品だった。

紹介された本
・『The Book as Art Artists' books from the National Museum of Women in the Arts』, Krystyna Wasserman 著, Princeton Architectural Press, 2007/2011(第二刷)
・『Book Art: Iconic Sculptures and Installations Made from Books』,Paul Sloman 編, Gestalten, 2011



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蛇谷さんの発表より、「大阪ジンフェア」のフライヤー


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城戸さんの発表より、墓地の本棚モニュメント


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城戸さんの発表より、紹介いただいた本


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森下さんの発表より、ジム・ローズノーの作品について



(レポーター:ふるさかはるか)
by bookartpicnic | 2012-04-12 03:15 | 研究会